ネット世代の雑評論

主にネット上に散らばる各々の事象についての紹介、及び評論

トランジスタにヴィーナス 竹本泉 全7巻 感想

7巻揃って感想書きたくなったので感想を書く。


トランジスタにヴィーナス Wikipedia
竹本泉 Wikipedia

「トランジスタにヴィーナス」
竹本泉が描くSFスパイアクション漫画。

竹本泉。不思議な漫画家である。
毒が無いのにどこか皮肉的で、ほんわかとした雰囲気なのに奇妙な驚きがある。

竹本泉の作品の世界観は大体共通している。
例えば23世紀、SF物だと、コピーされた地球で列強諸国にトカゲ宇宙人サールスや様々な宇宙人が跳梁跋扈している……と言った具合だ。
超能力者もいたり火星人の宇宙船がどうとかで設定が結構多い。まああんまり気にしないでもいいけど、作品群を通してみるとそれはそれで面白い。


で、そんな設定の中で女スパイアクションを描くために更に色々設定がある。
主な舞台である惑星リスボンは観光惑星でありながら地理的に諸国諸種族の諜報の最前線であり、赤道近くは燃料水晶というものの産地で、まともに機械類が働かない。
それ故、エネルギー銃ではなく、実弾、反動銃を使ったり、飛行機が落ちると困るので飛行船を使ったり、伝書鳩を使ったりする。SFでありながら19世紀のロマンも内包する面白い設定である。


そして主人公のエイプリル・イーナスは特殊な超能力を持った地球連合の諜報員、スパイである。
その能力とは「まわりで人死にを出さない能力」。通称「女神能力」。

劇中でも「とんでもない能力」と称されるこの能力は、どんな戦闘でも悲惨な事故でも彼女が渦中にいれば死者は絶対に出ない。重軽傷者は普通に出るが、まあ23世紀の科学で再生できる。一ヶ月とか再生槽に入るというオチだけど。
このおかげで死を描かずにスパイ物が描けるという仕組みである。
この能力は能力バトル物としても結構面白い。銃は急所に当たらない、特に必殺の毒針銃など役に立たなくなる。しかし殺さなければいいので普通に捕縛は可能。中途半端に能力を知っている敵味方がいると死なないと思ってみんな無茶するので大惨事になる。誰も死なないけどみんな再生槽行き。

イーナスは他にもキス魔(女性と男児に対して)だったり、知能を発達させた猫、ウィンスロウと宣誓契約していたり(ウィンスロウも一端のスパイとして活躍する)、女神と言うと怒ったりとキャラが濃い。

他のキャラもかなり魅力的である。
地球帝国の諜報員グデロリンは結構クールで、イーナスの能力を理解して避けようとするが上手く行かず巻き込まれる。
サールスの諜報員であるロロ・クルを初めとしたサールス達も、トカゲであり非常に傲慢な態度を見せながらどことなく間抜けでコメディリリーフで面白い。


このように様々な立場の人間が暴れまわるのだが、そこに善悪の観念が全くと言っていいほど無いのが非常に印象的であった。
同じスパイものなら、007でも敵は悪として描かれる。普通は何かしらの倫理観念が作品の中に入り込むものである。
トランジスタとヴィーナス、いや、竹本泉の世界観は善悪や倫理観といった概念は非常に薄い。

サールスは凶悪なトカゲ宇宙人で、数々の惑星を支配しての宇宙征服が目的なのだが、サールスは陽気で能天気で、傲慢であるにしろ宇宙人で文化や性質が違うと言うだけにおさまる。
帝国や連邦、神聖帝国も相手のデータを奪ったりするが、連合も同じような事をする。
イーナスはキス魔であるが、23世紀ではそれなりに受け入れられている。

人を殺そうとするのもスパイの任務なら許容されるし、必要で無いならば人殺しをしない分別もある。


こういう風に誰が正しいとか思想的な考えを外してただ物語を読み進められるのが竹本泉の魅力の一つなのかもしれない。
余りに押し付けがましい個性は、読む人を選ぶし、何でも読む人にも合う合わないによってストレスが溜まる。
説教臭い内容はテーマ性をはっきりと表現できるにしろ、読者への負担に繋がる。

そういった意味で、スパイアクションという様々なテーマ性を持ちうるジャンルであるこの作品。
竹本泉の本質を一つの方向ではっきりと示す作品になったのではないか。



漫画は面白ければ良い。確かにそうだ。
しかし、余計なものが混じったり、特殊なクセのせいで読者が楽しむまでに困難を含む場合がある。困難によって疲弊することで結果的に面白くなくなると言うこともある。
竹本泉先生が、漫画界でも特別な位置にいるのはそういった所も影響しているのではないか。

竹本泉先生のSF宇宙世界観は大好きなので、もっとSF物を書いて欲しい。学園ものとかラブコメも良いんだけどね。奇妙な話とか。
スポンサーサイト

テーマ:東方 - ジャンル:サブカル

  1. 2012/05/03(木) 00:44:39|
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0
<<文化の血脈。第四十七回動画紹介回。 | ホーム | 全ては極端。第四十六回動画紹介回>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://tateito1.blog48.fc2.com/tb.php/917-9688fed1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)