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河口慧海「チベット旅行記」上下巻読んだので感想

河口慧海 - Wikipedia
Hatena diary 石陽消息 入蔵熱の周辺

チベット旅行記、という題名だけ見ると軽い海外旅行記のように見える。
しかしこの本は講談社学術文庫。余りそんな感じの本は無さそうである。
そしてチベットという土地柄、現代中国の奥地にあり独立運動などもなされている土地という事を考えるとややきな臭くなる。
著者名を見ると慧海、どうにも仏教系の名前に見える。そしてチベットと言えばチベット仏教、インドから続く大乗仏教の流れをそのまま受け継いだそれが盛んである。ダライ・ラマ十四世はかなり有名。
最後に、私が読んだ版は改訂版である訳だが、元となった西蔵旅行記が西暦1904年刊行の作品となるといよいよ話の流れが変わってくる。当時のチベットは鎖国下にある。ちょうど日清戦争なんぞが終わって日露戦争が始まるかというぐらいの時代である。

チベット旅行記、なんて題名だが実際のところ冒険記とでも言った方が早い。
河口慧海は仏教僧として、当時の日本、中国に欠けていた大乗仏教の仏典をチベットに求め、また仏教の祖国であるインドからほど近いチベットで僧としての修行を積むことを目的として厳重な鎖国下にあったチベットへ潜入、密入国したという話である。
当時のチベットは欧米人ですら立ち寄ることのできない秘境と化しており、ヒマラヤ山脈の険しさもあり様々な侵入者を退けてきた。
そんな中日本人として初めてチベットに入ったのが河口慧海、という事になる。

当時のチベットは普通に行くだけでは五重の関門で追い返される。
そうなると関所を通らない間道を行けば、という事になるのだが、ヒマラヤ山脈の間道となるとただでさえ危険極まりなく猛獣もたくさんいる。そして普通に行けばどうしてもどこかの関所に当たるか監視のある場所がある。
それにチベットではチベット語というものがある。これをしゃべれなければならない訳だ。まあ中国語でも当時の清とは交流があったしなんとかなりそうではあるが。

慧海はまず日本から船でインドに渡り、そこでチベット語を一年間勉強した。そしてまともなルートではチベット入り出来ないことをさとり、ヒマラヤ山脈を西回りするという異常な遠回りルートで潜入することに成功した。カイラス山辺りまで回っている辺り尋常ではない。

鎖国下故に外国人を通報すれば大金が出ることになっている。それ故身分を隠してチベットに潜入するわけだがこれでもかというぐらい嘘をつきまくる。
確かに、仏法の説話を見れば方便とか言って仏陀も嘘をつく。嘘をつかねば本懐を遂げれぬとはいえ中々に無茶苦茶である。チベット人じゃないとばれたら中国人(古い本なのでシナ人表記)だと言い出すとか嘘に嘘を重ねまくっている。望まれれば占いめいたこともしだすし。

チベットについて、汚猥だとか殺生ばかりするとか堕落してるとかボロクソ書いてたり、他人の隠し事が大体聞こえていたりと色々やりたいほうだいしてるが、それでも仏教僧として、かなり厳しい戒律を守っている辺り自分の決めたルールには厳しいというタイプなのだろう。チベットの僧は肉喰いまくるけど慧海自身は虫も殺さず食事は午前中に済ませる。

頭が固く、自分が一番賢いとでも思ってるのではないかという場面が散見されたりもして、なるほど自分の意思を貫き通すことが人間性なのだなと感じた。
そうした狂気でもなければ何度も死にそうな目に遭いながら道なき道を行きチベットに辿り着き、また脱出することは出来なかっただろう。


私は無神論者である。しかし神話や宗教からくる文化に対し価値を認める者である。
大乗仏教、それも密教に属する部分は相当に滅茶苦茶なことが描かれてたりする。秘密集会タントラ、アレ何なのさ?そういえば密教は仏教のヒンドゥー化みたいなものらしいが……
まああれも方便というか解釈の問題ということになっているが、とは言え仏陀の教え、仏陀が説いた言葉が反映されているもの、仏教のエッセンスが書かれたものとはとても思えない。しかしそうしたものがあるからこそ人は考え思うことがよりよくできるようになる。
書かれている内容そのものではなく、そこから生じるものこそに意味がある。
善悪という思想も違うかもしれないが、善悪関わらず様々なものが生じるにせよ、善いものだけ享受すればよいのかもしれない。しかしそれを受け取るにはその文章なりなんなりが必要な訳だ。
であればこそ、それを守り発見し研究することは尊い。

慧海がチベット仏典を探し求めたのはまさに人類文化文明に利することだろう。
なるほど、嘘をつき、死に面して冒険を行った価値は十二分にある。当時の人は愚かだと思っても、今考えて見るとなるほど賢い行動とまで言えるかもしれぬ。
大冒険のハッピーエンドには宝物か。
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テーマ:読書 - ジャンル:サブカル

  1. 2017/06/21(水) 02:37:00|
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