ネット世代の雑評論

主にネット上に散らばる各々の事象についての紹介、及び評論

「ヒュペルボレオス極北神怪譚」読んだので感想とか

クトゥルフ神話 - Wikipedia
クラーク・アシュトン・スミス - Wikipedia
ツァトゥグァ - Wikipedia
ウィアード・テールズ - Wikipedia

自作の神性家系図(御意見をください!!) - 掲示板 | クトゥルフ神話TRPGやろうず


クトゥルフ神話。アメリカのパルプマガジン小説で20世紀初頭に作られた架空の神話体系であり、その邪悪で凶悪な世界観は現代日本の創作界隈でも直接的、間接的影響が散見される。
クトゥルフ神話はあくまで架空の神話体系であるが、登場する神性や怪物共、多種多様な魔道書やアイテム、あるいは地名はそれまでのファンタジー、ホラーのそれを覆す魅力にあふれている。

クトゥルフ神話の創始者というとハワード・フィリップス・ラヴクラフトが有名な訳だが、一人で神話体系を作った訳ではない。何人もの作家が固有名詞や設定を貸し借りし、その結果作り上げられたものである。
現代でもクトゥルフ神話は作り上げられつつあるのだ。

初期のクトゥルフ神話作家として有名な作家にクラーク・アシュトン・スミスがいる。
ラヴクラフトと親交が深く、その縁で書きだしたらしい。伝説的なパルプ雑誌ウィアード・テイルズで初期から二人は活躍していた。

ラヴクラフトは小説の舞台に現代(つまり20世紀初頭)を舞台として物語を語り出すことが多いが、スミスは超未来の大陸ゾティークや超古代の大陸ハイパーボリア(ヒュペルボレオス)、アトランティス、レムリア、ムー大陸、あるいは中世フランスなどを舞台とする場合が多い。
ラヴクラフトはリアリティの面、現実の崩壊を書いたのに対して、スミスは神話としてのスケールを書いた面が大きいのかもしれない。


今回感想を書く「ヒュペルボレオス極北神怪譚」はスミスのハイパーボリアやアトランティスものの短編を主に集めたものである。
ハイパーボリア(ヒュペルボレオス)とは古代のグリーンランド付近にあった大陸、もしくはグリーンランドそのものと言う事になっている。ギリシャ神話に出てきた地名だとか。
その大陸はどこに行ったんだという突っ込みもしたくなるが、大陸移動説がまともに評価されるのは1950年代以降で、書かれた当時は大陸が沈んだり浮いてきたりとかすると思われていたのだ。当時の科学の限界ではあるがあまり気にしないでいい。

まあ、短編の一個一個感想を書いていくのもいいが、疲れるし、そもそも20世紀初頭のアメリカ人向けの恐怖表現があまり現代では効果的ではない場合も多い。
ラヴクラフトの小説も、私は全集を読んでいるが、ラヴクラフトも自画自賛している「宇宙からの色」やその他少数の作品以外は、設定として面白いモノは多かれど今見ると小説として退屈なものも多い。
という訳で、面白かった、興味深かった、その他感想を書きたくなった短編についていくつか書いていく。クトゥルフものだけど必ずしも怖いから面白い訳ではないのよね。

ではスタート。


七つの呪い
これは傑作。かなり笑える。そう、笑えるのだ。
ヒュペルボレオスの首都みたいなとこ、コムモリオムの上級執政官ラリバル・ウーズがウールミ族とかいう洞窟蛮人退治にウールミタドレス山に出かけたら、たまたま魔術師の儀式を邪魔しちゃって、呪いをかけられて山の洞窟の奥にいる怠惰な邪神ツァトゥグァへの生け贄として自ら行くハメになって、でもたまたまツァトゥグァは満腹だったから呪いでもっと地下にいる蜘蛛の邪神アトラクナクアへのプレゼントにされて、でもアトラクナクアも暇じゃなかったので人類登場以前の妖術師ハオン=ドルへのプレゼントにされて、でも一人の肉体じゃ使い魔に分けても細切れになるだけなので呪いで蛇人間へのプレゼントに……

といった風に延々と呪いでたらい回しにされる。
ラリバル・ウーズが散々酷い目に合った挙句、生贄としてもいらんとかなんとか言われてたらい回しにされて、酷い扱いを受ける様は滑稽極まる。
様々な神性や驚異的な存在から不要扱いされたあげく、アブホースから食ったら(自分の子供ではないので(?!))腹壊すかもしれないのでいらんから外世界とかいう辺境にでも行けとか言われた挙句、帰りでアトラクナクアの蜘蛛の巣が切れて落死というのもアホっぽい。

クトゥルフ神話としての神、怪物の紹介と間抜けな呪いの連鎖、ハードな道中(自分が生け贄となるために行く道中)、全て合わさって作品に独特のテンポと雰囲気を出している。
自信を持って勧めれる作品である。


アウスール・ウトックアンの不運
コムオリウムの金貸し、アウスール・ウトックアンが担保として受け取った素晴らしい緑柱石が、元々ツァトゥグァの物で、勝手に逃げ出してそれを追ったらツァトゥグァに遭遇。死亡というアレ。
宝石の描写というか、その辺が美しい。金貸しの浅ましさとテンポの良い絶望描写が気に入った。


アタムマウスの遺書
首切っても三回生き返ったからコムオリウムが滅びた。
首きり職人の手記という体裁が中々楽しい。2回殺した段階で、ああ三回目もダメだなと思えてどうなるか期待できる構成も嫌いじゃない。


白蛆の襲来
なんか魔術師をスカウトして食う白蛆の話。
割とあっさり死ぬ白蛆が笑える。地味にエイボンの書の話で降霊術で事の顛末を聞いたとかいうのが便利というかなんというか。


土星への扉
これもかなりいい。ゾタックアー(ツァトゥグァ)に仕える魔術師エイボンとヘラジカの女神イホウンデーの大祭司モルギが、土星(サイクラノーシュ)に行った挙句色々する話。笑える類。
エイボンを逮捕して拷問に掛けるためにモルギが追っていったけど、なんやかんやで土星での連れとして協力している辺り微笑ましい。
ツァトゥグァの父方の叔父のフジウルクォイグムンズハーとかが出てくるあたりも笑える。なんだよ父方の叔父って。名前も長すぎるし馬鹿馬鹿しい。エイボンの発音を修正したりするし。
結果、エイボンとモルギはサイクラノーシュに永住して、ヒュペルボレオスではモルギがエイボンに拉致されたことになってイホウンデー信仰が没落したりとアホな結末。
恐怖も何もないがサイクラノーシュの異界描写が楽しい。
まあ書かれた時期に他惑星の詳細はまだ知られてなかったにしろ、土星ねえ。そういうナンセンスも楽しい。


ウッボ=サトゥラ
ロンドンの素人研究家トリガーディスがヒュペルボレオスの魔術師ゾン・メッザマレクの水晶を覗き込んだ結果、過去に精神がドンドン移っていき、最終的に凄い古代の知恵が書かれてるウボサスラの石版の上で貪り食い合う原初の生物になってしまったという話。ちなみに肉体とかも消失した模様。
スミス流の皮肉と過去描写が詠んでいて飽きない。


二重の影
アトランティスもの。
超古代、人類登場以前に繁栄した蛇人間が書いた何らかの召喚法を試すために色々やった結果、ロクでもないことになる話。
まあオチはクトゥルフものだなあという感想だが、古代の文字を理解して唱えるための回りくどい試行錯誤が面白い。霊を過去に送って学ばせるとかややっこしい方法もあるものだ。


スフィアノモエーへの旅
アトランティスが沈没するから別惑星に行くぜって、ジジイになるまでの時間を要して行ったらなんか植物になったという話。
完全にSFである。
二人のアトランティス人のギリシャ哲学者っぽい所も好き。


歌う炎の都市
オチがクトゥルフものっぽく、というかインスマスを覆う影っぽく二段落ちなのが印象的。助かったと思ったら自分から落ちる。


柳のある山水画
中国が舞台。なんというか、人生観とか、美学とか、とにかく美しさを書いた小説。
ある種のハッピーエンドと言えるか?幻想的である。



まあこんなところか。
ラヴクラフトのそれより読みやすいし、現代的な感性に合致する作品も多い。
まあラヴクラフトは文体の仰々しさも魅力なのであるが。
恐怖モノは現代人にとって麻痺している感覚なのでちょっとわからないところもあるが、ギャグっぽい作品はかなり楽しんで読める。クトゥルフものとしての設定も深みがある。
この本で一番の傑作は七つの呪いだろうか。二番目は土星への扉だろうか。三番目は難しいが、クトゥルフものとしての設定への影響という意味でウッボ=サトゥラが面白いか。

ラヴクラフトとの違いで言うと、「神」の描写もあるか。
ラヴクラフト作品での神は恐怖の象徴で、実際抗えない、人間の手が及ばないような超然とした存在であるのに対し、スミス作品の神はあくまで、強力ではあっても登場人物でしかない。
だからこそ、性格付けという点ではスミスの方が表情豊かなのかもしれない。結構ツァトゥグァ良い人っぽいところすらあるし。
逆に神としての存在感ではラヴクラフトに軍配が上がるか?
複数の作家によって語られることでクトゥルフ神話は作られているのだ。だからこそ重厚な楽しさがある。
まあ、なんか設定が無茶苦茶になってるところもあるが。神の系図とか。

人類登場以前の歴史。ロマンである。実際にありそうにないことであっても。
そういうロマンはそれを信じていた時代の人間によってのみ書けるのか?そうでもないだろうが、だからこそ書かれたというのはあるのかもしれない。
スポンサーサイト



テーマ:読書 - ジャンル:サブカル

  1. 2014/05/18(日) 05:32:43|
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0
<<アニメ弱虫ペダルの2期が決まったらしい | ホーム | フジウルクォイグムンズハー。第35回動画紹介回>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://tateito1.blog48.fc2.com/tb.php/1654-09bb6678
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)