ネット世代の雑評論

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ロジャー・ゼラズニイ「影のジャック」読んだので感想

ロジャー・ゼラズニイ - Wikipedia


まず、前提として、このブログを読んでいる人はゼラズニイとかそもそも知らないという前提で書く。
いや、こんなインターネットの僻地まで来る人だから知ってそうな気もするし、そもそもググればいい話だし、冒頭にWikipediaのリンクも張ったから実際それ見りゃいいんだけど、まあ概ね一々開くのも面倒だろう。

ああそうそう。ネタバレは当然あるよ。


まず奥付を見よう。

1980年発行。割と古い。ちなみに翻訳小説なので、原書はもっと古く1971年である。
なぜ2013年にもなってこんな古い本を読まなければならないのだろうか?
私は、古典の名作はどうせいつまでも残っていくから、読みたいときに読めばいいと思っている。むしろ読むべきは新刊の凡作である。
つまりこの本は、古典ではないか、名作ではないか、何らかの理由によって残らないか、それとも単純に読みたいと思ったから読んだのか、どれかかそれらの複合である。
答えは、まあ全部と言ってもいいかもしれない。

古典ではないか。古典とは模範とされてきた作品みたいな意味もある。そもそも今の世の中SF小説もヒロイックファンタジー小説も主流ではなく、その中でもゼラズニイはやや突然変異の感もある。

名作ではないか。まあ名作と言えば名作、いい作品だからこうして感想を書いている訳だが、ゼラズニイの作品を一つ挙げろと言われて一番に上がる作品かというと微妙である。

何らかの理由により残らないか。奥付をもっと読み進めよう。サンリオSF文庫とある。サンリオとはあのハローキティとかのサンリオである。あの会社が昔、翻訳SF文庫を出していた時期があった。それである。
Wikipediaを引用していくと、

引用
先発の創元SF文庫、ハヤカワ文庫SFによって主流作家の主要作品がすでに刊行されていたため、知名度の低い作家の作品や、著名作家であっても知名度の低い作品の出版が中心であった。このため、商業的には苦戦を強いられることとなった。

という訳で廃刊した。当然の帰結ではあるが。ちなみにゼラズニイの作品も大体ハヤカワで出てる。
で、

引用
本文庫の刊行作品は、本文庫の廃刊後には他社の文庫(ハヤカワ文庫・創元SF文庫)で新版刊行されたり、単行本として出されたものも多い。なお一部は近年、新訳で文庫刊行されている。

マニアックな作品もあるので、未刊行のまま入手が困難となっている文庫も多い。このため古書としては、数千円から1万円前後で取引されているものもある。

影のジャックは他では出てない(はず)。故に、地味に高かった。恐らくほっといたらもっと高くなってたのではなかろうか。
この影のジャックも全体が日焼けして小麦色である。

そして、読みたかったのか。然り。

私がロジャー・ゼラズニイを知ったのはやや変則的なルートである。
私の幼少期(と言っても小学生だったか中学だったか高校だったか忘れたが)、ローグライクゲームにはまっていた時期があった。まあ今でもローグライクは好きだが。
ローグライクゲームというと最初期のコンピューターRPG、ローグに類する作品群のことを言い、現代で有名なのは不思議のダンジョンシリーズだろうか。
しかしローグライクにも主流というか、ローグにより近いフリーゲームの系譜があり、NetHackの系譜やAngbandの系譜などがある。
NetHackはRogueの一番正当進化とも思える作品で、世界観としてはD&D的なところから抜け出さない。
Angbandは(それより前の段階でだが)指輪物語風(というかトールキン風か)の世界観を持っている。
この作品で指輪物語を知った人もいるのかもしれない。
Angbandはオープンソースで、ソースがきれいに描かれていることから派生・亜流が多く存在する。
その中でも有名な派生にZangbandというものがある。ZはゼラズニイのZ、この作品でゼラズニイ作品由来の固有名詞が多く作品中に取り入れられた(ついでにクトゥルフ系も)。
私はこのゲームの影響を受けて(正確にはその更に派生の変愚蛮怒だが)、ゼラズニイの小説群を読み始めたのだ(クトゥルフは既に読んでたような)。
変愚蛮怒には影のジャックも出てくる。泣きそうになるぐらい強い。

実際、ゼラズニイの影響をここまで受けた創作作品は少ないし、こういう入り方をした人も少なくは無いのではとも思う。想像するしかないが。


アンバーシリーズから光の王、地獄のハイウェイなど、まあ全て集めるほど嵌った訳ではないがそれなりに読んだ。
その中で、影のジャックは、他人の感想などを見るとスゲー面白そうなのでぜひ読みたいと思っていたが、上記のとおり、サンリオSF文庫で結構高くて、ちょっと買えなかった。買おうと思う金額では無かった。

最近amazonで中古の価格を眺めてみると、何とかマシな値段であったので買ってみたという訳だ。
まだ前置きをよく見て見ると、これ定価400円の時代か。今のSFなんで定価900円とかしたりするんだ?ジャケ買い不可能。
ついでに訳者を見ると、荒俣宏先生。ああ、ラブクラフト全集とかロード・ダンセイニとかの翻訳の人か。へぇ。



前置きがクソ長くなったが本題、というか感想に入ろう。

まず世界観がかっこいい。
惑星には魔法により支配される暗黒界、科学法則により支配される陽光界、その中間の薄明界があり、惑星の西極を中心に半分が暗黒界、惑星の東極を中心に半分が陽光界、そして間に挟まれて薄明界がある。
暗黒界では科学が通じず、機械は動かず、その代わり魔法により成り立っている、そして太陽無く常に闇で覆われている。陽光界はその逆で魔法は使えず、文化レベルは執筆当時の文明レベルでパンチカードのコンピューターとかがあったりする、そして夜が無く常に太陽が照らしている。
暗黒界人は死んでも西極の堆屍穴から復活するが、魂を持たない。陽光界人は魂を持つが死ねば二度と復活は無い。
暗黒界の地殻には大機械という歯車仕掛けがあり、逆に陽光界の地殻は魔法で満たされているという矛盾も面白い。

こういう世界設定に関しては本当に流石である。
魔法も科学もないまぜにして登場するのはゼラズニイらしい。


そしてゼラズニイらしい主人公。影のジャック。
ゼラズニイの主人公は基本、悪漢である。悪人であり、嫌われているところがある。しかし一本筋が通っていたりする。
影のジャックは影から魔法を生み出す大盗賊であり、本編では「殺された」復讐のために動いて、陽光界で世界を支配する魔法を得て、暗黒界を征服してしまう。そして復讐相手を配下として何度も殺したり、嫌がってる片思いの恋人を無理やり(魅了の魔法みたいなので)妃にしたりとやりたい放題する。かなり小悪党染みているところもある。
しかし、そのせいで世界が崩壊しそうになるとわざわざ地殻の大機械までいって世界を護ろうとしたり、陽光界で教えた学生について懐かしんだり、世話になった婆さんのかたき討ちをしたりと、善性というか、人間性は残っている。

明らかに悪人だったのが、成長したのかそれが一側面なのか、献身的な善行をする。この辺のストーリーもゼラズニイである。こういうのは結構考えさせられて好きだ。


ヒロイック・ファンタジーとして偉大なヒーローと勇敢な冒険を描きながら、極めて感傷的な物語であるのも注目である。
影のジャックは強い。実力があるし反骨精神も相当で、しかも抜け目ない。しかし、そんな主人公が悩んで、決断をして、したくないと思っていることをする。肉体的な物語と精神的な物語のバランスがいいとでもいうべきか。
最後、ジャックが生き残ったのか、死んだのか、それを読者に委ねてしまう辺りはかなり勇敢である。
まさかそんなところで終わるとは、というより、確かにこれ以上を書くのも野暮という感じもする。



総じて、古典と呼ばれてもいいぐらい古い作品であり、ヒロイックファンタジーというジャンルはもっと古いのだが、しっかりとした基盤の中、今でも新しさを持つ小説であった。
そしてゼラズニイらしい小説だったとも言えよう。ファンこそ読むべきか。色濃くゼラズニイを感じた。

満足いく内容であった。たまにはこういう時代の本も読んでみるのもいい。
何かで興味を持てば。
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テーマ:読書 - ジャンル:サブカル

  1. 2013/10/06(日) 07:38:25|
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